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まんぼう / 児玉 和子

 

 「乖離(かいり)の乖(かい)の字」は、下半分がチョン切れたようで格好が悪い。乖の字。に感情があっ

 

たなら、自分のスタイルを悲しむのではないだろうか乖離の意味は「はなれること、離ればなれになるこ

 

と」とあるので、この姿でいいのかもしれないが、私はなんとかしてみたい。

 

 下に木の字を書いてみた。乗(じょう)の字とまぎらわしい。

 

 心を書くとどうなるだろう。「悉(ことごと)く」にまぎらわしく、恋にも似てあやしい雰囲気がただよう字と

 

なった。

 

 こんな字遊びをしていたら乖(かい)の字のように、下半分がチョン切れた魚

 

のマンボウに思いがつながっていった。こちらはれっきとした生物、感情もある

 

にちがいない。

 

 水族館ではじめてマンボウを見た時、創造の神もいたずらがすぎると思った。

 

そう思いながらも、ネクタイをしめた背広姿の紳士がズボンは履きわすれたよ

 

うなユーモラスな姿に惹(ひ)かれて、しばらく眺めていた。そのうちに、わけも

 

なくもの悲しい気にさせられてしまい、私はその場をはなれた。

 

 広辞苑で見ると「マンボウはマンボウ科の硬骨魚で、熱帯にすむ」とあった。

 

漢字では翻車魚と書く。漢字検定試験に出題されそうな当て字である。マンボ

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ウが知ったら、「私はこの姿ですから、いつもゆっくり泳いでいます。翻(ひるがえ)る、などという字をつか

 

うのは、ふさわしくないように思いますが…」と言うかもしれない。

 

 私は、以前にみたテレビのドキュメンタリー番組を思いだした。

 

 マンボウはめったに獲(と)れないうえに、痛みのはやい魚で、市場にはでまわらない。まれに網にかか

 

ると、漁師は船上で刺身にして食べてしまうそうだ。

 

 「そりゃア、うまいさ。マンボウの刺身がくえるのは、漁師の特権さ。漁師冥利(みょうり)につきるな」日焼

 

けした漁師は得意そうにいった。

 

 この話、マンボウに伝えたい。そしてマンボウが、「たとえ一部であっても、私たちを賞(め)でてくれる人

 

たちがいる。私たちマンボウこそ、マンボウ冥利につきます。なんだか勇気がわいてきました。姿かたちが

 

なんでしょう!」

 

 こんなふうに思ってくれたら、私も安心して水族館のマンボウを楽しめるのだが…。(完)。

 

 

 

 

 

 

  
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