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ばっちゃん/児玉 和子

 

 孫がうまれると自動的に祖父母になる。だが、その呼ばれかたは案外むずかしい。おばあさま、おばあ

 

さん、オバアちゃま、バア様、ばばさま、ばあちゃん、ばーば、おおママ、などなど、思いついただけでもこ

 

んなにある。

 

 呼び名を気にするのは、おおかた祖母のほうで、祖父はあまり気にしないようだ。孫に「ジージ」と呼ば

 

れている人を知っているが「ジージ」というつもりが、「ジ、ジー」となり、ジジイともきこえるのに祖父はいっ

 

こう気にしない。

 

 両家の親や、祖父母が希望する呼び名が一致するのが好ましいが、なかなかスンナリとはいかない。

 

ある友人は娘が妊娠したと知った段階で「おじい様、おばあ様と呼ばせるのですよ」と引導を渡したといっ

 

た。自分の子どもは「お父さん、お母さん」で育てたが、孫にはランクをひとつ上げて呼んでほしかったの

 

だ。だが結果は「おばあちゃん」になった。商家に嫁いだ娘はあっけらかんとして言ったそうだ。

 

 

 「だって、おとうちゃん、おかあちゃんと呼ばせているのに、お母さんだけ〈おばあ様〉はないでしょ」

 

 こんな友人の話もある。初孫が産まれたと聞いて病院にかけつけ、娘夫婦や娘婿の親をまえに、まだ

 

目も見えない赤ちゃんに「あなたのグランママですよ」と呼びかけ、どさくさにまぎれて希望をかなえてし

 

まった。「あちらのお母様に先をこされたら、大変とあせったのよ」友人は手柄顔で話してくれた。これは

 

こちら側では成功例かもしれないが、あちら側で決まってしまった例も知っている。

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 東北で、東北の女性と結婚した長男夫婦が、やっと東京に転勤になった。駅に出迎えるとお嫁さんが

 

「ほら、ばっちゃんよ」と、友人を指差して二歳の孫にいった。孫は「ばっちゃん」といって歩みよってきたそ

 

うだ。私は言語能力が発達していない幼児には、いちばん言いやすいだろうなと思った。それなのに友人

 

は、私につめよらんばかりの勢いで、「東京でばっちゃんなんて呼ばせられると思う?きっと、あちらの

 

母親が教えたのよ」嫁の里の母親が恨まれることになった。友人は初孫に「おおママ」と呼ばせるつもりだ

 

ったらしいが、これでは語感に差がありすぎる。

 

 「絶対かわいがってやらない!」

 

 夢破れた友人は、孫にも八つ当たりした。友人はその後どう心の折り合いをつけたのか、先日たずねる

 

と「ばっちゃん」と呼ばれていた。「絶対かわいがってもらえない」はずのお孫さんは、ばっちゃんが買いあ

 

たえたたくさんのオモチャと、ばっちゃんの猫なで声の中で、元気にとびまわっていた。(完)。

 

 

  
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