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月の光に/片山 充代

 

 初秋のある夜、床につこうとしていた私はふと外の月明かりにさそわれて、ガラスごしに庭をながめた。

 

庭はあおく、ぬれたように照らしだされていた。

 

 いちばんちかくに見える四メートルほどの花桃の木に、ビー玉くらいの青白く銀色にひかる無数の球が

 

ほそい枝さきついているのにきづいた。光の玉はクリスマスツリーのイルミネーションのように木をかざっ

 

ている。一瞬、ホタル?と思ったが、そんなはずはない。ホタルの季節はおわっていたし、このあたりに

 

そんなに多くのホタルはいない。

 

 球は半透明に銀色の光をやどし、月明かりのもとでそれぞれが、ゆっくりと、枝先で回転をしているよう

 

にみえた。

 

 あまりの不思議さとうつくしさに息をつめてみいっているうちに、私はいつしかかがやく球のなかにわが

 

身をあずけていた。羊水のなかの胎児のようにまるくなり、目をとじ、無心に回されている。幻想からさめ

 

てわれにかえり、あらためて木をみたが、無数の球はそのまましずかに、青白くひかっていた。

 

 私は球の正体をたしかめようと、真夜中の庭にでた。花桃の木のそばにちかよって見あげると、光の球

 

はすべてきえていた。夢を見ていたのだろうか? と、なお木にちかづく。枝さきにちいさな水滴が見える。

 

昼間にふった雨が、風のないままちいさな水のふくらみを枝さきにやすませて、夜の月をむかえていたの

 

だ。ちいさな水滴は月の光によって、より大きなまんまるい光の球に見えて、私をまどわせたのだ。

2

 

 中天には、みがきあげた黄金のような月があった。私は月を見あげたまま、手をあわせた。家にはいっ

 

てもういちどその木をみると、無数の球が青白い光をはなっていた。

 

 雨上がりの朝などには、木々の枝先にやどった雨粒が朝の光をうけて虹色のダイヤモンドのようにきら

 

めくときがある。その美しさには、身も心もすいよせられるように魅せられてしまう。あの夜は、月が太陽に

 

とってかわって私を幻惑したのだろう。上質の酒精が五体に満ちて陶酔したときのように、その思いは

 

いまも私の心に満ちている。(完)

  
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