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耐雪梅花麗/犬塚 幸士

 

 師走の声を聞くと、梅がたくさんの蕾を小さな枝に忠実につけていくのに気づく。

 

 たぶん正月には、それらの蕾がぽっかり割れて二、三輪の花をつけることだろう。

 

 私たち夫婦がまだ貧しくて、暮らしと子育てに悪戦苦闘していたころ、友人から鉢植えの梅をもらった

 

ことがある。学校は出たものの、卒業即ドロップアウトしてしまった私を案じて送ってきたのである。

 

 梅の小鉢には、一枚の短冊が添えてあった。「耐雪梅花麗(雪に耐えて梅花麗わし)」。

 

 四十数年の歳月が流れていったが、この短冊は雑然とした私の部屋の柱にかかったまま健在である。

 

 しかし物心両面で私を支え続けてくれたこの友は、今年この世を去っていった。

 

 かえりみて、私はこの無私の友情に報いることができたであろうか。内心忸怩(じくじ)たるものがない

 

わけではないが、欝(うつ)にもならず、事故にもあわず、大病を患(わずら)うこともなく、卑屈にもならず、

 

世にはばかることもなく、三人の子供たちを健全に育てあげ、自身もほぼ天寿をまっとうしつつある

 

今日(こんにち)を思うと、まずは厚情に答えることができたのではないか、と思う。

 

 「風雪に耐えて、凛として生きよ」という友の言葉は、私が我が子らに伝える教えでもあった。

 

 冬に咲く花は多くはない。楚々として、凛として咲く梅、今年もまもなく花をつけることだろう。(了)

 

 

 

犬塚 幸士 : 登山家であり、日本山岳連盟の理事も勤める。

 

  
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